乙巳の年、「スマートなイメージの漬物への脱皮」に期待 「1食当たりの塩分量」表記で新たな漬物イメージ定着を
一般社団法人全国漬物検査協会会長 東京家政大学 客員教授 宮尾漬物微生物研究所所長
-漬物のイメージには、今なお塩分過多があります。漬物業界においては減塩化が進められてきたわけですが、依然払拭できていないようです。宮尾先生はこれまで、大学や専門学校で教鞭を振るわれてきたわけですが、学生の多くもそのようなイメージを持たれていたのでしょうか。
宮尾教授 管理栄養士を目指す学生たちは栄養学科に入学後、様々な分野について学び、履行科目も多岐に渡ります。疾病予防や治療など臨床現場での実習や実際に医療に携わる先生からのレクチャーもあります。特に、医療系の先生方は塩分摂取について問題視している場合が多いと思います。私の研究室のゼミ生に対しては塩分の大切さや適切な摂取量について話をしてきましたので、ゼミの学生達は的確に理解してくれたものと思っています。
長年の懸案だった一般消費者や業界外への発信
―WHOが推奨する塩分摂取制限が厳しくなる中で、日本人のナトリウム摂取量が世界平均の2倍と指摘されており、国内での減塩意識は高まっていることは確かです。
漬物各社が減塩に取り組み、昨今の漬物は低塩化が進みましたが、これまでの減塩への取り組みについての業界からの発信力は弱く、業界内での共有が進む一方、発信力不足なのだと痛感します。
宮尾教授 私も様々な媒体やセミナー、勉強会などを通して、塩分の重要性や漬物の効能などについて話してきました。その結果、業界内での共有はできていると思いますが、肝心な一般消費者など、業界外への発信ができていないと感じています。
-宮尾先生は外部(業界外や学校以外)で、講演をされた事も多々あると思うのですが、如何でしたでしょうか。
宮尾教授 社会人講座で講師をさせて頂く機会もあって、漬物の効能や塩分の重要性、また業界での減塩への取り組みなどについてお話をさせた頂いてきました。しかしながら、限られた人数を迎えての講習会でしたし、大学の近くにお住まいの方が主な対象でしたから、思ったほどには広がっていないと感じます。やはり発信という面では、中々外へ広がっていかないという事は長年の懸案でした。このような活動は地道ですが、続けていく必要性は感じています。
そのようなことから、多くの方々と情報共有ができる“プラットフォームの構築が急務“ということを以前からご指摘させて頂いておりましたが、なかなか容易ではないようです。
-業界紙としても力不足を感じますし、これからの発信力が重要なのだと思うのですが、今後どのようなことが必要でしょうか。
宮尾教授 一昨年前の夏でしたが、農水省からのご支援を頂いて、「漬物で野菜を食べよう!」の講演企画でオンライン講座を開催させていただきました。そこでは、一般の方も多く聴講して頂きました。加えて食品メーカーの方も多く、意外と多かったのが学校給食に携わる栄養士の方でした。そのほかに行政の方などにもご参加を頂き、聴講して頂くことが出来ました。
ご参加の皆さんからは感想なども頂いたのですが、「漬物は塩分過多と思っていましたが、実際は漬物からはそれほど多く摂っていないことを知り、目から鱗でした」といった声もありましたので、こちらから伝えたかったことは、それなりに伝わったのだと思います。初めての取り組みでしたが、これまで以上に業界外に向けて発信する事が出来たのではないかと思いますし、やって良かったと実感することが出来ました。
それから、「書籍の発刊」ということも再度検討していく必要性を感じていました。「漬物は塩分過多」という固定観念を払拭するためにも一般消費者向けに分かり易く解説した本を広めていくことが必要であると考えてきました。
10年ほど前に、「漬物をまいにち食べて元気になる」という本を出版しましたが、その時から随分経ちますし、ここ最近の講演や講義で話してきた内容や塩分の重要性、摂取量の実態やカリウムの重要性など、新たに付け加えたいと思っていました。
ようやくですが、昨年12月27日「「漬物の力」はなぜスゴイ」という書名で、販売をスタートさせる事が出来ました。これまで出版させて頂いていた漬物のお話に加えて、最新の情報なども加えて出版をさせて頂くことが出来ましたので、機会がありましたらご一読下さい。一般消費者だけでなく、社員教育としても活用していただけたらと思います。
「1袋当たり」や「1食当たり」のグラム数明記で塩分量をわかり易く
-最近の講演では、1食あたりの「塩分相当量」、「常食量について」に言及されています。
宮尾教授 「常食量」については、一昨年前から講演会等で話をさせて頂いておりますが、一回の食事で漬物から得る食塩相当量について、「100gあたり」というのは適当ではないと常々思っていました。市販されている漬物では、「100gあたり」と記載してある場合が多いのですが、実際に摂取している食塩量とはずれている場合が多いと思います。例えば、カップラーメンでは「1食当たり」と明記していたり、またほかの加工食品でも「1箱当たり」、「1切れあたり」のように実際に口にする量で表記しているものが多くなってきています。
1度の喫食量については、漬物によってもまちまちでしょうから、「1袋当たり(30g)」とか「1食当たり(30g)」のようにグラム数を併記するなど、カテゴリーごとの最適量を各社が決めて表記すればい良いのではないかと思います。定着するまではしばらく時間が掛かりますので、当面は少量(100g以下)包装の食べ切り商品1袋当たりの塩分量を表記して、1回の喫食量の塩分がわかり易く伝わることが良いのではないかと考えています。
沢庵ですと「5切れ30g」のような表記が考えられます。30gというのは、女子栄養大で考えられている一般的な常食量に基づいた考え方ですが、好きな方ではそれ以上食べる人もいれば、それ以下の場合もあるので、難しいところです。ただ、食べ切る量で少ないものは、「1袋当たり」とか、梅干しなどの場合は、おおきさにバラつきがありかも知れませんが、「1粒あたり(20g)」のような表示も良いのかな、と思います。調味梅干しなどですと可食部を考えると1粒当たり食塩相当量は0.6gと表示もできるでしょうし、実際に摂取される食塩量となるのではないでしょうか。しかし、各社、常食量については考え方が異なることもあるでしょうから、まだまだ検討するところはあると思います。
-漬物以外の食品ですと、他にはどのような表記がされているのでしょうか。
宮尾教授 私が講演等で例によく挙げるのはパンなのですが、6つ切り食パンの1切れ当たりが0.7gと表記されています。
梅干で比較してみますと、1粒20gで可食部は10g程度だと思います。1個当たりの塩分量は0.6gですので、上手に明記することで喫食量に対する塩分摂取量がより分かり易くなると思います。
ただし、各社全商品の栄養成分表示の変更には時間もかかるでしょうし、それが一般に定着、理解されていくにも相当時間を要するでしょう。地道な取り組みとはなるのでしょうが、これまでの固定概念を壊して、新たな漬物のイメージが定着することを期待したいと思います。
-昨今の漬物というと冷蔵保存が容易となり、サプライチェーンの構築もあって、減塩が相当すすんできたとの印象で、他の加工食品の方が高いイメージもあります。栄養士の専門学校でも、漬物の摂取制限以上に「ラーメンの汁は飲まずに残すように」と高血圧患者への栄養指導の一例として指摘されていたと記憶しています。
宮尾教授 実は麺類は塩分が非常に高くて、1食当たり5g程度塩分を摂取していますので、ラーメンの汁を残せばかなり減塩はできるのではないでしょうか。また、インスタントのカップ焼きそばの場合であれば、更に塩分を摂取することになります。先ほど挙げた梅干の塩分量と比較してみてもわかる通り、相当量を摂取することになると思いますので、加工食品との比較でも大きく印象が変わるのではないでしょうか。
漬物の塩分は他の加工食品と比較してもそんなに多くない。普通の加工食品の一つに過ぎない。なにも「特別扱い」してもらわなくても良いと思います。塩分摂取を考える時、ことさらある特定の食品を挙げる必要はなく、摂食される加工食品をトータルで考えていくことが必要だと思います。体の中にはいった食塩はどの食品に由来するのかということよりも摂食した加工食品、料理など全体を考えていくことが大切だと思います。
スパイスを使って、漬物の魅力を広げる
-漬物への認識には、世間一般と業界とのづれもあるように感じます。また、アウトソーシングが進んだことで食を取り巻く環境の変化は大きく、漬物への認識も大きく変わってきたようです。各社の商品開発にも期待したいのですが、商品開発面ではどのようなことへの留意が必要でしょうか。
宮尾教授 日本ではザワークラフトはあまり馴染まないのかもしれませんが、私は自宅でザワークラフトを作って食べていまして、毎日食べても全く飽きません。生きた乳酸菌もたっぷり1g当たり1億個以上も摂取できますので、10g食べれば10億個以上の乳酸器を摂取していることになります。健康食品の一つとしても推奨したい野菜の食べ方だと思っています。
ザワークラウトには、「キャラウェイ」や「ホワイトマスタードのホール」、「クローブ」などといったスパイスを使うことが多いですが、このような洋風のスパイスを利用し、洋風に仕上げた漬物を一つのカテゴリーとしてた漬物も面白いのかもしれません。「クミン」を加えれば、異国情緒のあるインパクトある漬物になるかもしれませんね。まだ、先の話かも知れませんが、今後の動向に注目していきたいと思います。
和風のスパイスというと、唐辛子、生姜、またはわさびが定番ですし、他にはゆずが利用されていますが、スパイスを効かせたスパイシーな浅漬なら、ネーミングも含めてこれまでの浅漬製品とは一線を画す新しい商品が生まれるかもしれません。ブラックペッパーなどを加えて、パッケージにもひと工夫が必要ですが、今の若い方達ならアイデアを膨らませて良い商品を開発してくれそうです。
個人的には、アイデアを出している段階は楽しいのですが、原料の調達や生産ラインに乗せて安定して供給できる体制に整えることは容易ではないと思いますが、こういったアイデアが開発のきっかけになれば幸いです。
-漬物業界も世代交代が進みつつあり、皆さんの新たな発想に期待しているところですが、これまでの変遷から、他にはどのような提案ができるでしょうか。
宮尾教授 様々なカテゴリーで、小売製品が取り扱われてきたと思うのですが、お洒落なお漬物が少ないように思います。もちろん、伝統的な漬物は大事ですし、今後も和食の代表として続いていくと思います。おしゃれな漬物として酢漬けのピクルスがあります。とはいえ、カラフルな野菜を使い、瓶詰めにして、ニューヨークの「ピクルスバー」のような形で、東京の表参道などで売っていたら見た目にも新しくおしゃれで良さそうですね。スーパーマーケットではなかなか売れないかもしれませんが・・・。日本では馴染みがないだけに難しいと感じてしまいますし、実際にそのような商品の具現化がイメージし難い。
しかしながら昨今、会員企業の中にはデザイン性の優れた商品を提案する漬物メーカーも散見するだけに、今後の各社の開発力に注目していきたいと思います。
漬物は、味見して買うことが難しいので、商品のデザインやネーミング、パッケージなどが購入意欲をそそる上で大事ではないかと思います。そういったことから、私たちが考える以上にパッケージデザインの仕上がりは売上にも影響するように思います。
-最後に今年の抱負について、お願い出来ますでしょうか。
宮尾教授 これまでの商品開発に対して多様性、意外性のある発想が必要なのだろうと思いますし、幹部の方が売れないと思うようなアイデアを煮詰めると意外に新商品開発を進められると思いますし、そういった考えがこれまで以上に必要だと感じます。今年は、「スマートなイメージの漬物への脱皮」に期待をし、皆さんとの交流を楽しみにして参りたいと思っています。
先ずは冒頭に述べましたように、「1食当たりの塩分量」の表記を各社で行なって頂けるよう、各方面でお話ししていきたいですし、会員企業各社からの発信にも期待しております。私もできる範囲で、皆様のご要望等にお応えできるよう、ご協力させていただきたいと思います。

宮尾茂雄 氏(東京家政大学客員教授 農学博士)
東京農工大学農学部卒業。東京都農業試験場食品加工学研究室、東京都立食品技術センター副参事研究員、東京家政大学家政学部教授を経て現在、東京家政大学大学院客員教授。四川大学客員教授(中国)。業界団体においても、一般社団法人全国漬物検査協会の会長を務めるなど、要職を歴任。
これまで教鞭をとるほか、漬物博士としてマスコミでも広く活躍していることでも知られ、研修会やセミナーでは漬物の機能性について分かりやすく解説している。
令和3年には宮尾漬物微生物研究所を開設し、所長として漬物企業の開発支援や相談、各種問い合わせに応えており、漬物業界からの信頼は厚い。
主な著書として「中国漬物大辞典」(幸書房)「乳酸菌でカラダいきいき おウチでぬか漬」(日東書院)「漬物入門」(日本食糧新聞社)「食品微生物学ハンドブック」(技報堂出版)など。